ミュージックフェスティバル (初出場) 演奏記

 

私がペリオーデ室内合奏団に入団したのは20年の10月。その頃は新型コロナ流行が激し く、団はミュージックフェスティバルへの参加を断念しました。次の21年も流行はまだ収まらず 練習会場が使えない期間が長く、参加を見合わせました。

そして、今年2022年。コロナは収まりつつあり、やっと参加できることになりました。私に とっては初めてのミュージックフェスティバルですが、他の方にとっては実に三年ぶり、待ちに 待った発表の場です。今年のミュージックフェスティバルの参加は20団体。そのほとんどが合唱団で、器楽は4団体のみ。ペリオーデ室内合奏団はフェスティバル開演第一番目、オープニング の演奏でした。

 

 

 

音楽連盟会長の開会挨拶を舞台袖で聞きながら、私たちは出番を待っていました。私はあまり緊張していません。指揮者の柴田先生がそばにいてくださるし、団のみんなも一緒だしチェロの パートの二人もいてくれる。何も恐れることはない。そんな思いです。それにこれから演奏する2 曲は、ずっと皆で練習してきた曲です。どちらも自分が好きな、愛着のある曲です。うまく弾けないはずはない。(なんという強気な発言...)。

しかし、思えば長い2年でした。入団して初めて練習したのが今日演奏する『カドリーユ』でした。始めは全くついていけず、ほぼ弾けませんでした。変な音を出して迷惑をかけないようにと、おっかなびっくりで弾いていた(弾いているフリをしていた)のを思い出します。でも、練習は楽しかったです。だんだんと弾けるようになり、少しずつまわりの音との響き合いが感じられるようになってきたのが嬉しかったです。  

舞台のスタンバイできて、皆が指揮に注目します。いよいよです。先生の手があがり、最初の音を奏でます。

 

 

一曲目は、バッハが編曲したコラール『神の歌なきに非ずも』。... バッハについては思い入れが あるので、ここで少し語らせてください。 昔、気持ちが鬱々として何をしても気が晴れずどんな 音楽を聞いても楽しめなかった時、バッハの宗教音楽が心に沁みました。マタイ、ヨハネ受難 曲、ロ短調ミサ。鈴木雅明ひきいるBCJ-バッハコレギウムジャパンがカンタータの全曲録音に取 り組んでいて、その頃は毎日バッハを聴いていました。

彼はわずか10歳で両親を亡くし、生涯に幾度も親しい人との別れを経験しています。彼にとっ て死は日常で、恐れ忌避するものではなかった。バッハは死を見すえそこに安らぎを見出してい たよう思われます。バッハという音楽家の、生と死 - 永遠の魂への向き合い方には心がゆさぶられ ます。

 

 

私たちが今演奏しているのは、Johan Schopという音楽家のコラールをバッハが編曲し、それを 柴田先生が器楽合奏にアレンジされた曲です。

ポリフォニー(多声音楽)は、各声部が独立して音楽が構成される - いわばそれぞれのパートが建 物を支える柱のようなものとして組みたてられた音楽です。私は正確に弾く - 柱を倒してはいけな い - ことで精いっぱいで他のパートの音が聴き取れなかったりしますが、それでも弦と管の音が 重厚に響き合うのを感じると天にも昇る心地です。この美しい音色の響きが聞く人の心に届けば どんなに素晴らしいことでしょう。...

やがて指揮をする先生の手が止まり、下ろされます。曲が終わります。音の伽藍は姿を消します。

 

 

 2曲目は、『芸術家のカドリーユ』。 バッハとは雰囲気が変わって、ワルツ王ヨハン•シュトラ ウス2世の華麗な曲です。カドリーユとは男女のカップルが四角になって踊るダンスですが、この 曲では当時流行していた音楽のオンパレード、メドレーになっています。

 

I 始めは有名なメンデルスゾーンの結婚行進曲。幸せな気分で音楽が流れるところに「疾走する 悲しみ」(モーツァルトの40番ト短調のメロディー)が ...(なんだか象徴的です)。

以下、次のような曲(の抜粋)が続きます。 IIウェーバー:歌劇「オベロン」/ショパン:ピアノソナタ第2番 IIIパガニーニ:バイオリン協 奏曲「鐘」/マイアベーヤ:歌劇「悪魔ロベール」/エルンスト:「ベニスの謝肉祭」 IVウェー バー:歌劇「魔弾の射手」/シュルホフ「羊飼いの歌」 Vシューベルト:合唱曲「反抗」/モー ツァルト:歌劇「魔笛」パパゲーノのアリア「私は鳥刺し」 VIベートーヴェン:「トルコ行進曲」 /バイオリンソナタ第9番「クロイツェル」 ...

 壮大な曲から可憐で愛らしい曲へ、堂々としたメロディーから繊細で優美なものへ... 曲はめまぐ るしく変化して、まさに舞踏会で踊っているような気分です。

 

IIIの部分の始めは8分の6拍子で8分休符のあとに入るのですが、練習中はそれが何度やっても うまくいかず、ずれてしまっていました。柴田先生は練習中マスクをしておられたのですが、本番 に近づいてからはマスクを外して指揮されるようになりました。息遣いー息を吸って吐く、そこ で音を出すタイミングを私たちが掴むという配慮からです。本番では、先生が息を吸って「さ あ、ここで!」と知らせるように吐く息のタイミングがよくわかりました。おかげでうまく合わ せることができました。

 

 

最後はVI、トルコ行進曲とクロイツェルソナタを3回繰り返して演奏します。始めはゆっくり、 しだいに速く、速く、もっと速く... フィナーレに向けて盛り上がっていきます。練習中は難しく て弾くことに夢中で顔がこわばっていて、先生に「表情が固いです。もっと楽しそうに演奏しま しょうね」そう言われていました。しかし、本番は楽しく弾くことができました。(あとで観客 だった妻に『楽しそうに弾いて、ノリノリだったじゃない(笑)』と言われました。) 『カドリー ユ』は会場が盛り上がって、ミュージックフェスティバルのオープニングにふさわしかったのでは ないでしょうか。 演奏は本当に楽しかったです。

 

周りの皆さんのおかげです。柴田先生ありがとうございました。団のメンバーの皆々様、本当にありがとうございました。聞いてくださった会場の方々、ありがと うございました。心から感謝いたします。また演奏する機会があれば嬉しく、もっと楽しみたいです。